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by tsukushi--juku
土筆塾主宰・土屋春雄のブログ

「わが青春の断面」つづき
「前々回のつづき、「わが青春の断面」を書きとめておく。
 6月22日の日記

安保反対は国民各層に及んでいる。労働者、学生、大学教職員、文化人、芸能人、中小の商店主とそ岸内閣追撃の、労働者600万を中心としたゼネスト。その規模は最高でありストへの支持は国民戦線的な規模に発展している。農民層の参加が決定的に遅れている。
新安保自然承認と言う事態は日本歴史の暗さを示しているが、同時にまた民衆を最大限組織した闘いに立ち上がらせたということによってそれは闘いの烽火ともなった。暗さだけに目を奪われてはならない。民衆の戦いは間違いなく前進している。

私の教師時代は、日本歴史上、激動の時代であった。『日米安全保障条約』改定をめぐっていわゆる安保闘争が全国で野火のように広がり、国会周辺は連日連夜、国民的大デモの渦中にあった。

オレは何だってこう勇気がないのだ。何だってこうしり込みしてしまうのだ。なんだってこう、心にフタをしてしまうのだ。今という、この重大な時期に。安保問題について訴えねばならないこの時期に。このオレの弱さが、かつて戦争を許した弱さだ。同質の弱さだ。

  むち打って むち打って オレの心にむち打って
  生徒たちが笑っているではないか
  先生の弱虫、それで私たちを守れるというの?
  むち打って むち打って オレの心にむちうって
  だが、訴えかける同僚の多くは
  とたんに心臓にふたをする。
  教壇に立って、子どもと向き合うときがせめてもの救い
  心は重い

 安保闘争は、日増しに激しさを増していった。もう、ためらっていることは許されなかった。

眠れない夜だ。午前3時。布団に入ってから、二時間が過ぎた。何だってこう眠れないのだ。「六月十九日、午前零時、安保条約はついに自然成立しました。その瞬間、国会周辺をとりまいた空前のデモ隊は、緊迫した空気に包まれました。」
 
 冷ややかな声だ。
 テレビに映し出された無数の顔、顔
 引き締まった唇 瞳は怒りの野火だ
 ぼくはぼくの怒りをあなたたちに重ねる
その場にいかれないのが残念だ

 岸内閣を打倒せよ、国会は即時解散せよ
 津波のように押し寄せる
 テレビの画面を飛び出してぼくの耳を打つ
 暗い夜だ、屈辱の日だ

 何だってこう眠れないのだ
 くもの巣にかかった蝶のように
 ばたばたとただ
 寝返りを繰り返すだけではないか

 樺さんぼくはあなたを知らない
 だが、あなたの死をぼくは永遠に記憶するだろう
 多くの仲間の血が流された
 一九六〇年六月十五日の日を

 人間であることを放棄したものどもに
 人間であるがためにこぶしを突き上げて隊伍を組んだその日から
 流され続けた幾多の血の尊さを
 ぼくは知っている

 右翼と称する雇われのと殺人どもが棍棒を振るって襲いかかり
 引き裂かれた悲鳴が逃げ惑うとき
武装した警官の壁はただ傍観していたのだ
 私たちの管轄ではないと、冷ややかにうそぶいて

生きることを否定されたあなたたちが生きるために戦ったとて
どうしてそれが「暴徒」でありえよう
盾を手に棍棒を振りかざしておどりかかったやつらこそ
暴徒でなくてなんだというのだ

樺さん、あなたは殺されました
あなたたちを「暴徒」とののしったやつらの泥靴にふみにじられて
眠れない夜だ。午前3時
夜明けはまだか 夜明けはまだか

 一九六〇年五月二十日午前零時六分、衆議院で強行採決された「新安保条約」は、参議院で審議、採決されることなく、一ヵ月後の六月十九日午前零時「自然成立」という形で成立した。
 この間の一ヵ月は、連日、デモ隊の波が国会に押し寄せた。とりわけ自然成立した日もそうだが、その四日前の六月十五日のデモ隊は大規模なものだった。この日のデモ隊は、右翼や警官と激しく衝突、このなかで、当時東大生であった樺美智子さんが殺された。右の詩はこうした一連の動きを歌ったものだ。

   子どもたちの上にも深刻な影響が・・・

 歴史の激動は子どもたちの上にも深刻な影響を与えた。教室で質問攻めにあって答えられない教師もいた。教師の「安保」学習が繰り返され、職員会議の議題となり、その会議は深夜に及ぶこともあった。私はもっぱらチュウター役をひきうけた。

六月十五日   (高校1年)
       
雨よおまえたちまでが
 大地が血と涙を吸い取ったあの暴虐の日々を
 忘れさせようとするのか
 大地よお前は 私の涙も吸い取った
 でも 私の体まで吸い取ることはできまい
 お前は私まで押し流すことはできまい

 その時期、子どもたちから寄せられた詩や作文を、私は私の大学時代の同人誌と同じ名前の「冬の芽」という、小冊子にまとめた。教師たちも黙っていることは許されなかった。学習会に次いで職員室を署名簿が回った。そうした動きの中で、全教職員の三分の二に当たる、教職員有志連名の「声明文」が、学校の正面玄関通路に、模造紙二枚に書かれて貼り出された。

      声明文

国会内外で、長い間大きな問題を巻き起こしていた、新安保条約が五月二十日午前零時六分、岸自民党内閣によって、強引に可決された。それは、社会党、民社党、共産党の各議員を、警官を導入して実力で締め出し、さらに自民党内の反対意見さえ無視し多数国民の意思を踏みにじった暴挙以外のなにものでもない。
すでに知られているように安保条約は、労働者、農民、市民、学者、文化人など、多数の国民によって反対されてきたものでありその声は2000万に及ぶ署名となって全国に広がっている。
たとえどのような理由をつけようと、この国民の意志を踏みにじった今回の暴挙は、民主主義を無視した行為と断じざるを得ない。もしこのような暴挙が是認されるなら、民主主義は重大な危機にさらされるだろう。
我々は怒りを込めて抗議し、新安保条約の成立に反対する。
我々は、岸内閣が直ちに国会を解散して、民意を問うことを強く要求し、ここに声明する。OO高校・中学校  教職員有志

この声明文の原案は私が書いたが、その原案が、手元に残っていたわけだ。
ところで、この声明文は直ちに神戸市内の私立学校教職員宛に発送され、やがて、神戸私立学校教職員組合協議会結成につながった。組合のなかった私の学校にもこれを機に教職員組合が結成されたのだ。
by tsukushi--juku | 2007-10-24 20:13