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by tsukushi--juku
土筆塾主宰・土屋春雄のブログ

卒業式・入学式に触れて
 卒業式・入学式に関連して

3月、全国で卒業式が行われ、4月には入学式行われる。この時季本来はおめでたい喜びの季節だ。だが私は一つだけ憂欝になることがある。今はもうほとんどの学校で日の丸掲揚「君が代」斉唱が当然のことのように行われている。そしてもうそれに慣れっこになって意見を言う人も少なくなっている。
 だが、小学生時代の大半を軍国主義下で過ごした私は、どうしても抵抗を感じてしまうのだ。日の丸も、君が代も、天皇の赤子として国家に忠誠を尽くす儀式と結びついてしか存在しなかった。出征する兵隊を送る時は一斉に日の丸を振り、一切の儀式の中では、直立不動で日の丸を見上げ、君が代を斉唱する、まさに軍国主義の代名詞であった。
 日本はあの戦争によって多大の犠牲を払い、アジア諸国に想像することさえおぞましい犠牲を強いた。そうした犠牲を払って獲得したのが日本国憲法であり、主権が国民であることが高々と宣言された。天皇は「象徴」であっても元首ではない。日本は「主権在民」の民主主義国家なのだ。だからこそ戦後長い間、日の丸を国旗と認めず、君が代を国歌とすることを認めず、もちろん君が代斉唱などはどんな国家行事の中でも、まして学校教育の中で、歌われることはなかったのだ。
 日の丸が国旗として、君が代が国歌として国会の多数によって押し切られてきたのは、日本が「戦争できる国」に向かって、逆コースを歩き始めた事と軌を一つにする。
 私はいま、日の丸・君が代問題を戦後史の中でたどるだけの余裕を持たない。したがって大変な舌足らずになることを承知で、問題提起程度の雑文を書いた。
 最近、大阪橋下市政のもとで、教育への干渉と「思想調査」アンケートをめぐって大変な問題が持ち上がっている。新聞によれば、卒業式で教頭が、先生方が君が代を歌っているかどうか、口の動きを監視し、チェックするという報道だった。まるで笑い話のようなバカげた行為だ、と笑ってすますことはできない。思想調査についても、とても見過ごせることではない。市長が市職員に「特定の政治家の応援」「街頭演説への参加」などを答えさせる。答えないと「処分対象」にするというのだ。
 俳優の愛川欽也さんが次のような発言をしている記事を読んだ。同感だ。「あの太平洋戦争前夜、同じようなことがあった。監視され、『どんな本を読んでいるか』答えさせられた。わずか60から70年前の話です。政府は命令に従うよう国民を一色にしなきゃなんない。これは結局、思想統一なんです。統一する方は、一色にならないやつを連行して、たたきなおして一色になったら監獄から出してやった。私たちはそんなことがない時代を、戦争という大きな犠牲を払ってとりあえず持ったはずです。犠牲の上で、今の憲法があり、思想・良心の自由がある.長い歴史を大きく元に戻す動きがあれば、これは危ねぇぞ、と誰かが言ってなきゃいけないんです。」
 大阪の橋下市政、大阪「維新の会」の動きは多少の色づけをして装いを変えているが、危険な動きであることは明らかだ。その大阪の動きに自民党や公明党がすり寄っているということも記録しておきたい。
 日の丸、君が代の流れもそうした逆コースへの一連の流れであることは間違いない。主権在民の憲法のもとで「君(天皇)が代は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで」などという歌詞が何の不思議もなく歌われる。私は強い抵抗を感じるのだ。
 長くなるからこれ以上書かない。最後に、もうずいぶん前になるが私が小学館発行の教育総合雑誌『総合教育技術』に15回連載した一回分の中に、卒業式に触れた文章があったので次に書きとめておく。


    心に生き続ける卒業式を

 三月。我が塾でも三十名近い中学生が卒業する。半数は小学生から通い続けた。拙著『学び創り遊ぶ』(毎日新聞社)に小三生として登場した子どもたちだ。私の留守に窓をこじ開けて教室に侵入したわんぱく連中。身近な草花で「貼り絵集」を作ってくれたNやM。古材で空き地に基地作ったと招待してくれたSやAやI。手作りのパチンコを首にかけて得意気に歩き回っていたY・・・。みんなみんな塾とともに成長した。
 今、彼、彼女らは授業が終わる夜十時を回っても、追い立てるまで帰らない。ギターを弾き、下手な歌を歌い、おしゃべりに時を過ごす。肩こりと腰痛に悩む私を腹ばいにさせ、交替でマッサージする彼ら。教室の雨戸締めを自らの仕事としてやり続ける0やY。「清瀬子ども劇場」の中学生リーダーに成長したA。動物好きで心優しい0。連ねれば、それだけで紙面を埋め尽くす。彼らは今、卒業記念にと青森の田子町行きを計画中だ。
 卒業は思い出となり、励みとなり、生きる力となり、人生の潤いや豊かさにつながっていく。卒業は新たな旅立ちだ。
 三月。全国で中学生が卒業していく。日の丸に君が代、形式だけが先行する卒業式が子らの心に何を残すだろう。子らが主人公の卒業式でありたい。(三月号)(土屋春雄)
by tsukushi--juku | 2012-03-22 18:40